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フリードマンによると、完全一雇用を追求する金融緩和政策が貨幣の増加をもたらし、貨幣の増加は失業率の低下をもたらす一方で、インフレを引き起こす。
しかし、失業率はある水準まで低下すると、金融政策によってはそれ以下に引き下げられなくなる。
そのため、さらに失業率を引き下げようとする金融緩和政策はインフレを高めるだけで、失業率を下げることができずに、スタグフレーションをもたらす。
それ以上、失業率を引き下げるためには、金融緩和政策ではなく、職業紹介や職業訓練、さらに、教育水準の引き上げなどの政策が必要である。
仮に、日銀が1979年からの第2次石油危機に直面して、「総合判断」という従来の方針を維持したならば、どのような金融政策を取ったであろうか。
「日銀流理論」に従って、民間の資金需要にあわせた金融政策を採用したであろうか。
もしそうだったならば、民間の資金需要は原油価格高騰による景気後退に伴って減少したと思われるから、日銀はその減少にあわせて貨幣を減らす政策を取ったであろう。
その場合には、景気後退は実際よりも厳しくなったであろう。
70年代初めの貨幣急増による物価高騰に懲りた日銀をはじめとする各国の中央銀行は、フリードマンを中心とするマネタリズム(貨幣重視主義)の影響もあって、70年代半ば以降、貨幣の動きを重視する金融政策を採用するようになった。
前に述べたように、貨幣重視の金融政策に世界でもっとも成功した中央銀行は日銀であった。
しかし、日銀はマネタリー・ターゲティングのルールを厳格に守って、貨幣を一定率で増やす政策を取ったわけではない。
実際には、貨幣増加率を徐々に引き下げていき、80年代前半には7パーセントから8パーセントで安定化させる政策を取ったのである。
FRBの金融政策はテイラー・ルールだったか日銀をはじめ世界の中央銀行の多くは、政策金利として短期名目金利を用いている。
日銀の場合はオーバーナイト・レートであり、FRBの場合はフェデラル・ファンド・レート(以下、FF金利)である。
アメリカの経済学者ジョン・テイラーは短期名目金利を政策金利とするルール型金融政策を提案している。
この金融政策はテイラー・ルールと呼ばれ、でその場合には、原油高による物価上昇に拍車をかけ、インフレ率は英米並みに10パーセント台半ばから後半に達したであろう。
実際に日銀が取った政策はそれまでの貨幣(M2+CDで定義される貨幣)増加率の引き下げ速度をほぼ維持することであった(図表5‐129頁)。
しかし、前に説明したように、1980年代後半以降、日銀はこの成功をもたらした10年間の「貨幣重視政策」を捨ててしまった。
その後、日銀は「物価の安定」を目的に掲げて、裁量的に金融政策を運営するが、失敗を重ねることになるのである。
ティラーは、潜在的実質国内総生産として過去の趨勢的な成長率が実現した場合の実質国内総生産を採用している。
短期名目金利=実際のインフレ率十α{(実際の実質国内総生産一潜在的実質国内総生産)/(潜在的実質国内総生産)}+18(実際のインフレ率一目標インフレ率)+均衡実質金利。
このティラー・ルールでは、実際の実質国内総生産が趨勢値を上回る場合や、実際のインフレ率が目標インフレ率を上回る場合には、中央銀行は短期名目金利を引き上げるように金融政策を運営する。
実際の実質国内総生産が趨勢値に一致し、かつ、実際のインフレ率が目標インフレ率に一致する場合には、短期名目金利は実際のインフレ率と定数項である均衡実質金利の合計に一致する。
中央銀行がインフレ率のコントロールに重きをおく場合は、βの方がαよりも大きな値が採用され、逆に、実質国内総生産の安定的な成長を重視する場合には、αの方がβよりも大きな値が採用される。
テイラー・ルールに基づくFF金利が実際のそれから大きく禿離したのは、1987年後半から1988年の前半にかけてであった。
それは、87年の後半にアメリカの株価が大暴落(いわゆる、ブラック・マンデー)したために、米国の中央銀行がFF金利を大きく引き下げることによって、金融の混乱から経済が不安定化することを回避しようとしたからである、という。
1980年代半ば以後、多くの国で貨幣増加率と名目国内総生産成長率やインフレ率との関係が安定的でなくなったとして、マネタリー・ターゲティングを放棄する中央銀行が増えた。
それに代わって、登場したのがインフレーション・ターゲテイング(以下、インフレ目標政策と呼ぶ)である。
インフレ目標政策はニュージーランドがパイオニアで、1989年4月に採用した。
それに続いてすぐに、カナダが採用し、続いて、92年9月に欧州通貨制度から離脱したイギリスが採用に踏み切った。
93年にはスウェーデンとオーストラリアが続いた。
インフレ目標政策を採用したこれらの国は、どこも70年代半ばから80年代にかけてインフレ率が高かった。
これらの国の中には、金融政策の中間目標として貨幣残高の増加率を採用したり、外国為替相場を目標として採用したり、その両者を目標に設定したりする国もあった。
いずれの目標もうまく機能しなかったが、これらの国は高いインフレを経験して、明確な目標のない金融政策では市場の信頼は得られないという結論に達した。
こうした経験を経て、これらの国が中期的に達成する目標として、インフレ率を採用するのは自然の成り行きであったと言える。
一方、1997年から98年にかけて起きたアジア通貨危機に際しては、アジア諸国の中でインフレ目標政策を採用する国が増えた。
国際通貨基金の調べでは2006年現在、インフレ目標政策採用国は25ヵ国である。
なお、ユーロ加盟国の欧州中央銀行(ECB)はインフレ目標政策とは述べていないが、物価の安定を2パーセント未満かつ2パーセント近傍のインフレと定義して、金融政策を運営している。
1.インフレ目標政策を採用している国の中央銀行は、短期的には、インフレ率と失業率あるいは生産量との間にトレード・オフ(2律背反関係)があることを認めている。
すなわち、インフレ率を引き下げると、短期的には、失業率が上昇し、生産量は減少するという関係である。
したがって、例えば、石油価格の上昇のようなコスト・プッシュ型の物価引き上げ要因(需要の増加ではなく、生産費用の増加を原因とする物価上昇)によって、実際のインフレ率が短期的に目標の上限を超えても、直ちに金利を引き上げる金融引き締め政策は採用しない。
直ちに金融を引き締めれば、失業の増大と生産量の減少を招くからである。
また、実際に、中央銀行がインフレ率を短期的にコントロールすることも困難である。
以上の理由から、インフレ率が短期的に目標の上限を超える可能性があっても、急激な金融引き締めが産出量を大きく変動させたり、失業率を大きく上昇させたりする可能性が大きければ、インフレ率が短期的に目標の上限を超えることは許容される。
「含み」を持たずに、裁量的に運営すると、かえって物価や雇用の安定に失敗するリスクが大きくなると考えている。
そこで、そのリスクを回避するために、次のような特徴を持つインフレ目標政策を運営している。
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